209 宗教と科学(33)神の万能を信じたニュートン力学

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   209 宗教と科学(33)神の万能を信じたニュートン力学

歴史上有名なガリレオは前回のブルーノよりしぶとかったようだ。同じように宗教裁判で地動説を捨てるように言われ、1度はさっさと誓約して許された。16年後、『天文対話』で再び地動説を強く主張し、2度めの宗教裁判で有罪判決を受けた。今度は地動説の放棄を「誓約」より厳しい「宣誓」をして、軟禁状態で生涯を終えた。

ガリレオは「宇宙は神が造った完全な世界であり、宇宙の天体は理想的な円運動をしている」と信じており、彼の地動説は聖書と両立するものだった。彼もまた神を信じていた。そして望遠鏡で宇宙をのぞいた最初の人でもある。オランダの眼鏡屋が偶然に凸レンズと凹レンズを組み合わせて望遠鏡を発明したという噂を聞き、自分でも作ってみた。それがガリレオを宇宙に誘うきっかけになったそうだ。

余談だが、彼が宗教裁判で教会に従いながらも「それでも地球は動く」とつぶやいたとされる逸話は名高いが、どうも後世の作り話らしい。また有名なピサの斜塔の落下実験も、17歳のときに発見したとされる『振り子の等時性』の発見も、本当かどうか不明だという。

ガリレオが亡くなった翌年、イギリスでニュートンが生まれた。
ニュートンの偉大さを一言でいうと、「天と地の法則を統一したこと」だ。それまで人類は天と地は別々のルールに支配された別個の世界と考えてきた。しかし、ニュートンは宇宙の星々も地上の物体も同じ運動の仕方、法則に貫かれていることを明らかにした。

あのリンゴの落ちるのを見て万有引力(重力)を発見したという故事の通り、木の枝を離れたリンゴはまっすぐ下に落ちる。しかし、リンゴを水平に速く投げれば丸い地球の表面に沿って落下し続ける――つまりいつまでも地面に着かず、地球を一周する計算になる。ちょうど月が地球に向けて落下し続けている――回っているのと同じことだ。リンゴが地面に落下するのも月が地球の周りを回るのは重力という同じ力が作用していることを突き止めたのだ。
こうして天地のルールは統一され、人々の宇宙観も大きく変わる。宇宙は特別な世界ではなく、地上と同じ法則が成り立つ、いわば地続きの世界だったのだ。

コペルニクスガリレオも地動説は唱えたが、なぜ地球が太陽の周りを回るのか、その理由を示すことができなかった。ところがニュートン万有引力を突き止め、地動説の科学的証明をしたのだ。
力を伝えるには直接相手に触れねばならない、というのがアリストテレス以来の常識だった。だから天使たちが神の命令で星や天体を直接動かしていると当時の人々はまじめに考えていた。でも万有引力があればもう神や天使は不要のはずだ。

だが、ニュートンは神を否定しなかった。天体の運動の仕組みは万有引力で説明できたが、かんじんのことがわからない。太陽や星々、そして宇宙はそもそもどうして造られたのか、まったく手つかずのままだ。大著『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』のなかでこう書いている。

「太陽や惑星などの壮麗な体系は、全知全能である神の深慮と支配によってしか生まれようがない。無限の能力を持つ神は永遠にして無限の空間と時間を造り、宇宙のあらゆる空間、あらゆる時間にあまねく存在して、宇宙を統御している」

なぜ宇宙は無限でなければならないのかーーニュートンはいう。
もし宇宙が有限であれば、当然宇宙には〈中心〉や〈端〉があるはずだ。すると、宇宙の中にある諸々の物体は重力のために中心に集まり、ついには宇宙全体がつぶれてしまうだろう。そうならないために宇宙は無限でなければならない。そして無限の大きさを持ち、無限の過去から無限の未来まで続く宇宙を造れるのは無限の能力を持つ神以外には考えられないーー。

こうした絶対空間、絶対時間というニュートンの考え方は、「宇宙の大きさは有限であり、世界には始まりと終末がある」という教会の教えと真っ向から対立する。教会の教えとは対立したが、ニュートンは神を信じ、その神は全知全能であるため、ニュートン力学もまた成立したのだった。

ニュートンの発見した重力の法則のおかげで物体の運動の仕組みはわかった。でも、「なぜ重力という力が働くのか」、という仕組みについてはニュートンも説明できなかった。それを説明したのがアインシュタイン相対性理論だ。
〈物体があると周囲の空間が曲がり、その曲がりによって引き起こされるのが重力〉という真理である。この理論はもうひとつ、ニュートンの絶対時間、絶対空間を否定した。〈時間や空間は絶対なものでなく、互いに影響しながら伸び縮みする相対的な存在である〉ということを明らかにした。だから相対性理論と名付けられたのだ。

これはニュートン万有引力の法則をしのぐ新しい重力の理論となった。ニュートンの母国イギリスの新聞でさえ「アインシュタインニュートンを超える天才科学者だ」と絶賛するようになった。
こうして相対性理論に基づくアインシュタインの「宇宙像」が君臨するが、それもやがて否定されていく。そのプロセスを次回から簡単にみていこう。(つづく)