22 子猫の隠し場所へ誘導する母猫

野良猫たちとさまよったボクの仏教入門 22 

22 子猫の隠し場所へ誘導する母猫

Yさんの話でいちばん迫ってくるのは母子猫のドラマだ。

出産してやせ衰えた母猫はよく食べる。人間と同じように授乳のためだ。離乳期になると、もっと食べたがる。おなかいっぱい食べた餌を鵜飼のように吐き出して赤ちゃんに食べさせるらしい。「この時期、母猫は子猫をかばって、物陰や建物の陰、草むら、茂みなど、人目につかないところに隠しています。子猫もこわがって出てきません」

――ここまではだいたい想像がつく。Yさんならではの話は鵜飼いの時期がすぎてからのディテールにある。

「母猫は缶詰など餌の塊をくわえて、子猫のもとへ運ぶんです。そのとき、子猫に合図をおくろうとするらしく鳴くのだけど、口にくわえているから、いつもの<ニャー>にならず、<オー、オー>という、くぐもった声になるんです」

そのつぎの時期はどうなるのだろう?
「赤ちゃんが生まれてから一ヶ月半ほどすると、母猫も少しは私に気を許し、私が食器に餌を入れて置こうとすると、「こっち、こっちへきてよ」というように私の顔を見ながら誘導していくのです。子猫が隠れている場所へです。私がいくと、一瞬、数匹の子猫たちはひるんで逃げかけます。でも、そばに母猫がいるので安心するのでしょう。食器をおくと、われ先に食べ始めます。それを見守りながら、母猫は自分は食べないのです。きっとおなかがすいているでしょうに。」

 「雨の日には母猫が赤ちゃんを口にくわえて、濡れない場所に移動するのをみます。雨のほかにも、隠れ場所はいつも危険にさらされているのでしょう。母猫はしょっちゅう、子猫たちを引き連れて移動しながら育てています。ノラの母猫から生まれた子猫は万事慎重です。餌も用心して食べます。毒を盛る人たちが多いですからね。本能的に察知するのでしょうか。むろん、母猫もはじめのうちは、子猫をなかなか人前につれてきません」

 子猫たちはやがて、隠れ場所から出て、きょうだいで、ダンスをするように遊び戯れる時期が訪れる。ノラ猫の母子がいちばん輝き、謳歌し、いちばんかわいい季節である。