24 太く短いノラの生涯に祝福あれ!

ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 24

24 太く短いノラの生涯に祝福あれ!

警官出動の騒ぎのあと、一時は餌やりをやめようとおもった。時間もカネも損をし、しかもヒヤヒヤドキドキ、こんな分のあわない仕事はない。しかし、やっぱり続けたのは、2つの理由がある。ひとつは急に打ち切ると、これまで定期的にもらえる餌に慣れていたノラたちは途方にくれるだろうという心配。Yさんの元飼い猫はノラになるともろい、という理屈である。

もうひとつは、友人の奥さんで動物の福祉活動に取り組んでいるHさんのあっけらかんとした話を聞いて少し思い直した。
沈んでいたボクはYさんとはまた異なるタイプの楽天派のHさんに会って心のもやもやを問うたのだ。

ノラは長生きしないんですよーー、とHさんはYさんと同じことをいった。
「短い命だから、1食でも多く食事をさせてやればいいんじゃないですか。好きなようにさせてやるのがいちばんです、自然でいいんですよ」

Yさんは大阪近郊に住んでいるが、飢えや寒さ、それにカラスに内臓を食べられて頭と毛皮だけになった赤ちゃん猫の死骸をよくみかけるという。母猫を離れてしまった子猫はまず生き延びることはできない。また、ノラ同士のけんかで傷つき、それが原因で死んでいくケースもけっこう多いそうだ。Hさんは自宅の庭先でも餌をやっており、毎夜、ノラが数匹やってくる。けんかで傷つき、ウジがわいているので、消毒液をふきかけようとするのだが、逃げてしまう。その後、死体でみつかったりするのだが、「でも、いいじゃないのですか。それが自然の姿なのだから」

大声、早口でポンポンまくしたてるHさんの話は私を楽天的に陽気に引き立ててくれた。
「そりゃ、ノラは短命ですよ、でもね、うちの飼い猫ちゃんなんか16年も生きているけど、家ばかり、一歩も外に出れない。ノラちゃんは、木に登ったり、雀をつかまえたり、自由に冒険して、3年ぐらいしか生きれなくても、それはそれでいいじゃないですか。人間だって太く短く生きる人生を選ぶ人もいるし。私たち、ノラ猫ちゃんの全部をカバーできません。食べ物のお手伝いをするだけでいいのでしょうよ。そりゃ、自分の飼い猫は不妊手術をしないといけませんよ。でも、ノラは自由にさせてやるのがいいわ。どうせはかない命だもの」

「ノラちゃんだって、1年を生き延びると、なんとか餌はみつけるものですよ。猫嫌いと同じくらい猫好きがいます。、猫に同情して餌をやる人がいるのです。人前では言いませんが、そういうノラのシンパが必ずいます。食べた魚の骨とか、残したご飯をそれとなく庭先に捨てたりしています。ノラちゃんも、ニャー、とかいって甘えていって。うまくやります。ね、ノラたち、そんなにやせていないでしょ。それぞれパトロンを持っているのですよ。ノラちゃんは餌を探すのがお仕事だから、24時間探しているのだから。きっとどこかでみつけますよ。ノラも賢いのは少し生き延びる、賢くないのは少し早く死ぬ。人間と同じですよ。私ね、いまのあなたのつらい思いをずっと乗り越えて現在に至っています。」
「以前、動物福祉会にはいっていたのです、でも、もうあの人たちはのめりこみすぎて、おかしいです、ついていけません。わたしは3年いてやめました。安楽死なんてさせるのですよ。人間の手で殺すのですよ、最終的に、そんなことできません。」

Hさんは気落ちしているボクを元気づけるため、いくぶんおおげさな楽天節を語ったのかもしれないが、ボクはうんと気楽になった。そしてタイプの違うYさん、Hさんの2人からどこか共通する宗教的なものを感じた。