206 宗教と科学(30)「フェルミのパラドックス」

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206 宗教と科学(30)「フェルミパラドックス

ほかの星にも私たちと同じような人間(知的生命)は存在するのだろうか?
だれしも子どもの頃、星空を見上げながら抱いた疑問だろう。
火星には数年前に水と氷の存在が確認されており、多くの研究者は過去の火星には何らかの生命が発生する可能性があったと考え、いまも生存していると考える人もいる。
宇宙の中の生命を論じた著名なアメリカの物理学者ダイソンは数年前、東京で「人類は自ら遺伝子操作などで存在様式をつぎつぎ進化させ、太陽系内や天の川銀河、お隣のアンドロメダ銀河にも移住、進出していくだろう」と講演した。

地球以外にも人間のような知的生命は存在するのか?
そんな話になると、必ず出るのが「フェルミパラドックス」といわれる有名な逆説だ。フェルミはイタリア生まれの原子核物理学者で世界で初めて原子炉を作ったことで知られるノーベル賞受賞者だが、彼は、もし、宇宙に人類以外に知的生命体がいるのなら、「なぜ、私たち地球人は彼らの訪問を受けないのだろうか?」と反問した。宇宙に知的生命が繁栄しているなら、人類より高度な文明をもつ生命体も多数存在するはずで、彼らがわれわれ地球人のところへあいさつに来てもよいはずだが、実際にはそんな事実はないじゃないか、というわけである。

勝彦先生によると、この逆説に対して一般に次の4通りの答えがあるそうだ。
1、 じつは彼らはすでに地球に到着しているのだが、人類のような原始的知的生命体から身を隠している。
2、 宇宙旅行は危険で困難なのでやってこない。
3、 宇宙において生命はきわめて小さな、ほとんどありえないような確率でしか発生しないから、地球以外にはまだ存在しない。
4、 知的生命体の社会は、高度な文明を獲得した段階で自ら消滅していく運命にある。

 勝彦先生がもっともあり得るとおもうのは「4」だそうである。その根拠はつぎのようなものだ。

 天の川銀河には、およそ千億個の惑星系があるとする。そこに知的生命体が存在する確率を千分の1と仮定する。すると、銀河系では1億個の星に知的生命体が存在することになる。これに時間的な確率を掛ける。銀河系が誕生しておよそ百億年なので、知的生命体の高度文明が存在できる時間(百年とする)の割合はわずか1億分の1となる。銀河系で知的生命体が存在する星の数1億個に存在できる時間の確率(1億分の1)を掛けると1である。これは現在銀河系内に知的生命が存在しているのは地球だけ…とちょうど計算は合う。

アバウトな仮定と推定がいくつも含まれているが、なんとなく納得できるでしょ、と勝彦先生はいい、その高度な文明をもつ人類社会がこれまで多くの知的生命体がそうであったようにいまや自滅コースを歩き始めている、と警告するのだ。

 遺伝子操作など爆発的に進んでいる生命科学技術も貴重な医療技術であるとともに新たな病原菌をつくったり人間の生物的あり方を変えてしまう危険がある。大学の1研究室が人類社会を崩壊させる技術力をもつような時代になった。さらに地球規模の環境破壊。あるいは戦争・核兵器などなど。
 私たちの祖先のホモサピエンスがアフリカから世界に広がり始めたのはいまからわずか10万年ほど前。それ以来、人間社会は劇的に変化したが、心はついていけない。その古い人間が人類社会を崩壊させる科学技術を獲得しつつある。「自滅コースは人間の進化の過程で宿命づけられているのだろうか?」と勝彦先生は嘆く。そして地球人もまた、よその星の知的生命体へあいさつにいくまえに自らの科学技術力で消滅していく運命にあるのだろうか?

 冒頭の物理学者ダイソンは「人類から始まった知的生命体は宇宙論的な生命体となり宇宙全体をさらに豊かで多様な世界へと発展させていくだろう」と楽観的で壮大な予言をしている。

 人類は自滅コースを進むのか、宇宙生命体としてさらに発展していくのか。21世紀はその分かれ道らしい。いやいや、もっといえば、ボクらの宇宙そのものがごく微小な一点に押しつぶされてしまうか、膨張しすぎてボケ老人のように果てていくのか、そんな岐路にさしかかることも確実らしい。そのとき、ボクやノラがいま生きている意味をだれが答えてくれるのだろう。証明してくれるのだろう。神なのか、科学なのか、別の何かなのか?    (つづく)