203 宗教と科学(27) 宇宙の2大主役は正体不明

ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 203

203 宗教と科学(27) 宇宙の2大主役は正体不明

正体不明の〈暗黒物質〉とか、謎の〈暗黒エネルギー〉とかが宇宙論にはやたらに登場する。それも「宇宙の見えない主役」とか「宇宙の本当の主役」とかニギニギしいキャッチフレーズ付きである。
前回の前東大教授佐藤勝彦さんの「宇宙論入門」の場合、見えない主役は暗黒物質であり、本当の主役は暗黒エネルギーとなっている。

かなり以前から宇宙科学者の間では宇宙の中には「光っていない物質」「観測から見落とされている質量」が大量にあるのでないか、とうわさされていた。暗黒物質が具体的にクローズアップされたのは古いことでない。40年ほど前、アメリカの女性研究者ベラ・ルビンが光らない物質が隠されていなければ銀河の中での星の回転速度を説明できないことに気付いたのがきっかけだ。

いまでは、光は出さないが、重力の源になる「何か」は、暗黒物質と呼ばれ、あらゆる種類の銀河の周りに、あるいは何百個もの銀河が集まった銀河団にも、周囲を取り囲むように存在していることが明らかになった。その量は、望遠鏡や電波で見える星など普通の物質の10倍もあるという。
 
暗黒物質の正体は?
はじめは、ごく単純に星の死体、あるいはブラックホールのような見えない天体と思われた。
星は一生を終える時、こうした暗い天体を残すのだそうだ。太陽の8倍より小さな星は老化すると、中心部はエネルギー源がないので萎え、ただ冷えるだけでしだいに黒くなってしまう。外層はガスとして宇宙空間に放出される。また、太陽の30倍より大きな星は爆発をし、ブラックホールを造る。
しかし、その後、この説は否定され、代わりに宇宙創世期に生まれた原始ブラックホール、弱く重い粒子など諸説があるが、いまも正体不明のままだ。正体はわからなくても、存在するのは間違いなく、銀河など光で見える物質はこの暗黒物質の重力によって集まっているのだという。

ところが、12年前に宇宙の本当の主役「暗黒エネルギー」が発見され、アメリカの『サイエンス』誌はその年の10大発見のトップに選ぶ騒ぎとなった。アメリカとオーストラリアのそれぞれプロジェクトチームが「現在の宇宙には〈真空のエネルギー〉が満ちており、それによって現在、宇宙は加速膨張している」と発表したのだ。

いま、宇宙は創成期に続いて、第二のインフレーションが始まったのか?
その驚きはともかく、この真空のエネルギーが今日一般に「暗黒エネルギー」と呼ばれるものである。これはさきほどの暗黒物質よりさらに強力で宇宙を構成するエネルギーとしては、暗黒物質23%に対し、暗黒エネルギーは73%と3倍を超える。そして天体やガスなどふつうの物質は4%にすぎない。
目に見えるふつうの物質の役割は、宇宙全体の膨張や運命を決めるうえで片隅の端役にすぎないことが数字の上でも明らかにされた。宇宙を牛耳る二つの暗黒のボスは神秘の向こうに横たわり、人間のお目通りを許さないのである。

米航空宇宙局(NASA)が「暗黒エネルギー探査計画」を設置したのをはじめ、日本、アメリカ、ヨーロッパの研究者たちがその正体を明かそうと必死で取り組んでいる。
こうした動きについて勝彦先生はこう書く。
「第二のインフレーションが本当に始まったのかということもはっきりと言えないし、また、それが本当としてもすごく大きな謎が残る。だが、このような状況はわれわれ理論物理学者としては歓迎したい。物理学が進歩するためには新たな謎が必要だからである。」

さらにこういう趣旨も述べている。
宇宙論は確かにこの百年でおよその宇宙進化の骨格を描き出すことに成功した。略。しかしそれは同時に本質的に挑むものがもはやなくなったことを意味しており、研究者に失業の危機が迫っていることになる。」

そして宇宙論は終わったのでなく、その始まりの終わりであると強調し、「知れば知るほどいままで気付かなかった新たな謎がみつかる」「二十一世紀前半には、観測によって豊かな宇宙進化の描像が描き出されるであろう」と、最後はゆけゆけどんどん、太鼓をたたくように盛り上げている。
ふと、職業軍人たちが自分たちの失業対策のために戦争をつくりだしたという歴史上の多くの事例を連想してしまった。

このほかにも同書にはこんな箇所がある。
「宇宙の未来についての記述は圧倒的に少ない。これは宇宙の未来について論文を書いても実際問題としてこれを観測的に実証することができないからである。宇宙論での未来とは少なくとも億年以上の未来であり、科学者の一生の間に確かめられることはありえない。略。そもそも人類が存続しているかも疑わしい。」
啓蒙書だけにわかりやすさを心がけ、また、ボクが門外漢ゆえに早合点しているところもあるだろうが、科学者の失業の危機のくだりとあわせて部外者としては甚だ興味深い。

それというのも、もう一人の佐藤さんーー文隆先生が、別の論文で、これ以上の宇宙研究にどんな意味があるのか、それをコスト面(当然、宇宙の科学研究費はわれわれの税金で賄われているから)と一般国民の認識・意識の面から問うているのである。その紹介は次回以降にまわそう。(つづく)