175 生老病呆死(38) アインシュタイン・ホーキング・プラトン

ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 175

175 生老病呆死(38) アインシュタイン・ホーキング・プラトン

 京大名誉教授岸根卓郎さんの宇宙論はいよいよ「見えない宇宙」にはいっていく。前回に続きそのひとこと要約。
「現代の宇宙論は〈見える宇宙〉に対して〈見えない宇宙〉の存在を明らかにしつつある。それによると、現在、私たちが知っている〈見える宇宙〉は全宇宙のわずか10%にすぎない。残りの90%は私たちには見えない物質からなる〈見えない宇宙〉であるといわれている」

「これまで西洋の自然科学は見える物質世界と見えない精神世界を別々に考え、物質世界のみを研究対象としてきた。物心二元的な唯物思考科学だった。しかし、この世は物質世界と精神世界が一体化した物心一元論の世界である。これはさきに述べた〈生物を構成するのに必要な物質をすべてそろえても命の誕生とはならない〉ことからも明らかだ。西洋の科学は〈物をつくって魂を入れず〉だ。これからは〈物をつくって魂を入れる東洋の科学〉への転換が求められる」

「物質世界と精神世界(情報世界)を分離せず両者を同時に研究対象とする物心一元論的科学がこれからは必要だ。陽と陰、プラスとマイナス、男と女、生と死、物質と情報など…ことごとく、もとはひとつでありながら二つに分かれて、しかも補完し合って存在している。この2極対立の宇宙法則は〈この世のすべては対立する存在があって初めて存在する〉といいかえてもよい。これは仏教の諸法無我(この世のすべては相互に依存しながら存在している。独立自存のものはなにもない)の教えにも通じる」

「1928年にイギリスのディラックが〈反物質〉(物質でないもの)を理論的に発見。その後、アメリカのアンダーソンが宇宙線のなかに反物質が含まれることを実験的にも発見した。そのあと、すべての素粒子に正粒子と反粒子が存在することも次々証明された。〈宇宙は正物質からなる宇宙〉というそれまでの定説が覆された。宇宙は素粒子にいたるまですべて二極対立の宇宙法則によって統一されていることが確認されたのだ」

この二極対立の宇宙法則は岸根さんによって神や命にも適用される。
「見える物質(肉体)が〈この世〉にある限り、その背後には必ず、見えない神とか命が〈あの世〉になければならない。逆に見えない神とか命が〈あの世〉にある限り、その背後にはそれによって支配される見える物質(肉体)が〈この世〉になければならない。言い換えると、見える世界がある限り、必ず見えない世界がある。ハードな世界がある限り、必ずソフトの世界がある。」

さらにこの法則は宇宙そのものにもあてはまる。
「現代の宇宙論では正物質で構成される〈正宇宙〉と反物質からなる〈反宇宙〉の存在が重要なテーマで、いまや宇宙は〈正反する対の宇宙〉からなっているのでないかと考えられるようになった。換言すると、見える宇宙(世界)があればこそ、それに対する見えない宇宙(世界)があり、見えない宇宙(世界)があればこそ、それに対する見える宇宙(世界)がある、ということだ」

この論理を推し進めると一気に宗教色が強まる。
「見えるこの世にあるものは、それに対応して、必ず見えないあの世にもあり、見えないあの世にあるものはすべて、それに対応して必ず、見えるこの世にもある」

「この世の見えるものの背後には、それを支配するあの世の見えないものがあり、あの世の見えないものの背後にはそれによって支配される、この世の見えるものがある」

さらにーー。
「見える人間(肉体)がこの世にある限り、その背後には必ずそれを支配する見えないあの世の神や命があり、見えないあの世の神や命があるからこそ、それによって支配される、見える人間(肉体)がこの世にある。だからこそ私たちは見えない情報(精神)世界にある神や、仏や、命の存在を信じることができるのだ」

ここまで導いたあと、岸根さんは科学のワサビ味をだめ押しのようにきかす。
「見える宇宙すなわち〈実の世界〉と、見えない反宇宙すなわち〈虚の世界〉とはどういう世界を指すのだろうか。長い間、宇宙論・数学では虚数はあり得ないとされてきた。しかし、アインシュタイン相対性理論によると光速を超えると質量、長さ、時間は虚数になる。もしそうした〈虚の世界〉が実在するとどうなるのか。車椅子の天才学者、ホーキング博士は〈宇宙の始まりの向こう側には虚の世界がつながっている〉といっている。この虚の世界が、予知やテレパシーなどの超能力といった超常現象をも可能にするという学者も現れてきている。実の世界がある限り、必ず虚の世界があるということを示唆しているのでなかろうか。」

アインシュタインホーキング博士という超有名な学者のお墨付き。さらに超有名な哲学者、プラトンイデア論「この世のものはすべて影、本物はあの世にある」も加わって、ボクの心は揺れる。