157 生老病呆死(30)聖書の神はランク付けがお好き!?

    ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 157

157 生老病呆死(30)聖書の神はランク付けがお好き!?

「今までことさら避けてきたテーマに真正面から触れる」と挑発的な前置きをして神学者・北森嘉蔵牧師は創世記〈天地創造〉の章の解説をはじめる。

『神はまた言われた,〈われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう〉。神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された』

この小文を論拠に北森先生は、地上の生きとし生きるものを片っ端からランク付けしていく。そのやりかたはあまりに乱暴で得手勝手だ。例えばこんな風である。
「神のかたちというのは人格であるというのが結論です。人格とは愛することのできるものだと言い換えておきます。この人格、つまり愛を持っているのは神と人間だけで、他の生物は持っていません。犬も猫も愛を持っていません」

こう言いきったあと、北森先生は反論を予想してか、一歩引きさがってユーモラスな論点を用意する。俳句の季題にある『猫の恋』だ。
季題が認めているからには猫も恋愛――つまり愛するのだ、と錯覚する人がいるかもしれない。しかし、これはちがう。猫は愛しているのでなく、欲求しているにすぎない。欲求は自然法則のままである。その証拠に猫は交尾期を過ぎると知らん振りだ。欲求に比べて愛はあくまで自発的であり、自由な人格的なものである。これは犬も猫も虫や魚も持ち合わせていない。

では、犬猫は何者なのか。それは植物、動物などすべての生物、さらに鉱石など無生物である物質一般、一切合切を含めて『自然』という名で総括される。すなわち、地上の存在は「神と人間」グループと「自然」グループの二つに分けられる。

そしてこれら自然グループは、神に絶対服従、背くことは絶無だというのだ。その証明に北森先生は天地創造の有名なセリフ『神は〈光あれ〉と言われた。すると光があった』を持ち出してこう説明する。
「最近の物理学の発達で、物質の源は光であるとわかった。だから聖書が創造のはじめに光をもってきたのは理にかなっている。」

さらに「光(物質)あれ、と神が言った瞬間に物質があったというのは、神の意志に背く余地はないということだ。物質は神の意志に必然的に、強制されて服しているということになる。」
これは犬猫など人間を除くすべての生き物=自然すべてに通じる原理なのだそうだ。要するに、犬猫馬牛なども「物質」ということだ。

ここまでとても乱暴で独りよがりな展開と思うが、まあ、概念的なことだから見過ごすとして、この原理を踏まえた具体的な「食物」の話に入るとボクもそうはいかなくなる。

北森先生は聖書から4個所のフレーズを引用する。
上述の『海の魚と、空の鳥と、家畜と、…… 治めさせよう』
『生めよ、ふえよ、地に満ちよ、…… 海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ』
『神はまた言われた。〈わたしは地表にあるすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなた方に与える。これはあなた方の食物となるであろう〉』
『地のすべての獣、空のすべての鳥、地を這うすべての命あるものには食物としてすべての青草を与える』

この4つのフレーズをもとに北森先生は、食べるものと食べられるもの、を単純明快に仕分けする。
「治める」とは、食べてよい、という意味であるとして、動物、植物は人間の食物として用意した。
 動物は植物を食べてよい。ただし、これは草食動物の場合であり、肉食動物に触れていないのは「聖書の不備な点」と但し書きをつけたうえで、「自然界においては動物と植物の間には段階の相違がある」と強調する。北森先生も、聖書の神もいやにランク付けがお好きなようだ。

 そして、生き物のいのちを食べねばならないのは人間の悲しい業であるとする仏教を「われわれは刺身やすき焼きを食べるとき涙を流すだろうか」と詰め寄る。すべての生き物への畏敬を説くノーベル平和賞受賞者で医療伝道家神学者、音楽家、哲学者で知られるキリスト教徒、シュヴァイツァー博士を「仏教徒に近い考え方だ。医者は病原菌を殺すではないか」と切って捨てる。
北森先生によるキリスト教・人間・動物の関係については本ブログの14回「とっておきの人・北森嘉蔵牧師」、15回「サムシングロング(何か間違ったもの)」、16回「われら地球上の共食い仲間」に詳しく書いています。

 むろん、何事も一般論で決めつけるのは間違っている。ひとくちにキリスト教といっても個人でさまざまな解釈、考え方があるのは当然だ。「動物実験廃止・全国ネットワーク」「地球生物会議」代表の野上ふさ子さんによれば、クリスチャン作家、遠藤周作はとても動物好きで以前、動物保護法の改正署名を集める際、呼びかけ人になってくれた。また、ボクは知らなかったが、京都の嵐山か比叡山ニホンザルアメリカに実験動物として売るという実話をもとに、動物実験に抵抗する主人公を描いた『彼の生き方』という小説を書いている。そして『海と毒薬』は医学と人体実験という重いテーマを追究した彼の代表作だ。