123動物実験(55)歴史のドラマ 10 猫の大量詐欺事件

     ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 123

123動物実験(55)歴史のドラマ 10 猫の大量詐欺事件 

 ネットや新聞広告で「犬猫の里親募集」をよくみかける。捨てられた、あるいは生まれながらのノラ、また、その赤ちゃんたちを救おうとするボランティアのみなさんの活動だ。
 野上ふさ子さんは〈私たちにできること〉のなかで、こう書いている。

『もらい手・里親さがしを
(犬や猫を)どうしても飼えなくなった場合は自分の手で新しい飼い主を探す。新聞広告などでもらい手を探すときは皮革業者や実験業者が求めてくる場合があるので身元を確認してください。』

●第12幕 大阪地裁

 何気なく読み過ごす個所だが、ことし2月、前例のない「猫の大量詐欺事件」が最高裁上告を経て有罪判決となった。わかっているだけでも約40匹の猫をもらい受け里親となった若い女性は「猫を返せ」と命ぜられ、強制執行を受けたが、目指す猫は1匹もみつからなかった。業者が移動用・保管用に使う大型の檻が3つも残っていたという。猫たちはどこへいったのか、女性は口を閉ざし、いまも謎のままだ。

 くわしい顛末はネットで報告され、判決文は最高裁のHPに採用されているほか、専門誌「判例タイムズ」にも紹介されている。そのあらましはつぎのようなものだ。

 平成16年の秋ごろ、ボランティアの人たちの間で1人の20代女性の名が広がった。「猫を譲ってください。終生の家族として大事にします」とあちこちにメールを出しているという。女性は大阪府下のワンルームマンションに住み、在宅で株の投資をしているという触れ込み。いったん猫をもらうと、「寝る間もないくらい忙しい」と元の飼い主に会うのを拒み、猫もみせてくれない。返してほしいといっても応じない。

 ボランティアの人たちが、おたがいに女性とやりとりしたメールを見せ合い、電話の記録などを照合すると、いろいろおかしなことがわかってきた。
 たとえば、メールの文章はつぎの3種類がほぼ定型となっている。
「(ネットの写真で見た)あなたの猫は私がこどものころ寝食をともにしてかわいがった猫によく似ているので、思わずメールさせてもらった。」
「幼少のころから、実家で7匹ぐらいの猫を飼っていた」
「終生の家族として猫ちゃん迎えさせていただければ大変嬉しく存じます」

 そして、3匹の猫を受け取った日にも、同じようなメールを別のボランティアの人たちに送り続けていた。「親子猫3匹でも一緒にいただきます」「きょうだい2匹をペアで歓迎します」などという文章を添えていた。

 少なくとも2ヶ月半の間に9人から計17匹の猫を入手していることを確認した。そのほか、ボランティアの人たちが彼女のマンションを訪ねた時に目撃した猫が10匹。むろん、それ以前に入手した猫も数多いはずだ。
(ちなみに、彼女自身の証言をもとに裁判所がのちに正式に推定したのだけでも約40匹にのぼる。)
 直感的に変だと思って猫を渡さなかったボランティアも7人いることがわかった。

 どうしてそんなに猫が必要なのか? これだけの猫をどうしたのか? 終生の家族にするにしては異常に多いのでないか? これだけの大家族がワンルームマンションにはいりきれないのでないか?
 ふくれあがった疑惑をぶつけ、自分たちの猫にあわせてほしい、それがだめなら返還してほしい、とボランティアの人たちは、メールで、手紙で、電話で、直接訪ねて、かけあったが、彼女はいっさい応じなかった。手紙の受け取りは拒否し、行き先を告げずに引っ越してしまったりした。

 ボランティア側は、あくる年の平成17年8月。大阪地裁に「猫大量詐欺事件」として提訴した。
法廷では、ボランティア側が譲渡した猫の写真や特徴の一覧を提出し、これらの猫が現在飼われている場所、飼育している人、などを明らかにするように訴えた。
 裁判所は女性に対し譲り受けた猫たちの現在の写真を出すように命じた。
 女性は「完全に室内で飼っているわけでないので、時間がかかる」と答えた。
 
 1年後、大阪地裁はボランティア側の主張をほぼ認め、女性の詐欺罪が成立。72万円の損害賠償の支払いを命じた。女性、ボランティア側ともに控訴した。ボランティア側が控訴したのは、この判決を評価しながらも、自分たちの要求する「猫の返還」について、「猫を特定できない」と却下されたためだ。
前代未聞の猫の詐欺事件は、第2ラウンドの大阪高裁で争われることになった。