121 動物実験(53)歴史のドラマ 8 農薬・エイズ

ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 121

121 動物実験(53)歴史のドラマ 8 農薬・エイズ

 実験動物たちに「戦後」はない。人間はいつでも戦争に備えた兵器開発に狂奔し、動物実験を絶やすことはないからだ。
 「新・動物実験を考える」で、動物実験と戦争のつながりを問うたあと、野上ふさ子さんはさらに農薬、エイズなどとの関わりについても追及している。引き続き、要約していく。

 ●第10幕 「爆薬から農薬へ」、「生物兵器からエイズへ」

 戦争中の毒ガス兵器や爆弾製造のノウハウは戦後はそのまま農薬の開発に引き継がれてきた。日本も例外でない。農薬工場に衣替えした多くの元爆薬工場で作り出された農薬が全国の田畑や山野に大量にばらまかれたのだった。

 農薬の開発・研究は2つの側面を持つ。作物の「害」となる微生物や動
植物に対しては短時間で殺す猛毒としての即効性が求められ、作物を食べる人間には毒薬の影響を薄め、すぐ現れないように「遅発性」が要請される。だから農薬の開発には毒性の強さと同時に毒性を薄める研究も行われているのだ。いずれにせよ、両刃の剣、人間もまた猛毒の危険にさらされていることを忘れてはならない。

農薬を散布する農民たちが、自分がなぜこのような「原因不明の病気」になったのか、理由もわからずに死んでいったケースは過去にいくらもある。
 残留農薬放射能と同じように食物連鎖を通して人間の体内で最高度に濃縮されるだろうから、将来にわたってどんな「原因不明の病気」が新たに発生するかまだまだわからない。

 そして、その猛毒の被害を最初に、真正面から受けるのが実験動物たちだ。
 動物を用いた農薬の毒性テストは悲惨の一語に尽きる。農薬の原料や製品を投与された動物は、苦しい、吐き気がする、体が痛むとかの症状を訴えることもできず、苦しみながらしだいに衰弱し、死んでいく。その過程を観察され、死後は解剖して内臓の病理標本を調べられる。それがこれら実験動物の定めであり、唯一の生きる意味なのだ。

 エイズはじつは、アメリカ国防総省ベトナム戦争当時、生物兵器をつくる目的で遺伝子を組み替え人為的に作った病原性ウイルスの失敗作でないか、という説が根強くある。最高度の機密施設から外部に漏れて出たというのだ。

150年の歴史を持つ英国の全国動物実験反対協会はこの説を支持し、たとえばつぎのように説明している。

 遺伝子を組み替えた微生物やウイルスの作用を調べるには、ここでも動物実験がおこなわれたろう。おそらくエイズウイルスは最初はチンパンジーやサルなどの霊長類に注入されたと思われる。それがすぐに感染、発症しなかったので次に刑務所の囚人らに人体実験されたものかもしれない。アメリカでは人体実験を志願すると刑期が軽くなるという制度がある。

 エイズウイルスは完成したものの、発症まで数年かかることから、無害なウイルス、つまり生物兵器としては失敗作ということで見捨てられた。ところが、人体実験を受けた人々が社会に出て、やがて発症し、伝播したというのだ。

 野上さんはそれぞれの章の終りに、「私たちにできること」をいくつか箇条書きにあげている。こどもでも理解できるようにわかりやすく書かれている。なにげない、普通の事柄であるが、じっくり読んでみると、よく考え、練られた内容だ。とりわけ具体的なのがいいと思う。「これならすぐに実行に移せる、なるほどなるほど」、とボクは納得しながら読んだ。ホンモノは奇をてらわないという。小さな世代にもぜひ! と呼びかけている野上さんの苦心と熱気を感じた。

 これらのいくつかをあげておこう。
 繰り返すけれど、ホンモノはーーほんとうに大事なことは、はったりがない、耳目を驚かすようなこともない、珍奇でもない、ごくごく普通なことだ。いまどき、パフォーマンスやキャッチフレーズやおおげさ言動で、人目を集めるのが芸人から大小政治屋まで、小金に卑しく、陰茎を障子に突っ込むシーンだけが売りだった作家崩れのイシハラさん、

単純・断定・繰り返し戦法でヒットラーばりに、もっぱら「改革」の2字だけを叫んでいた小泉クン、などなど大ハヤリだ。有権者のみなさんも最近は少しはカシコクなり彼らの正体がわかってきたみたい。でももう後の祭り。日本は、トウキョウは、日本国民は、おかげさまでどんどん墜落していくみたい。ま、それは人間の話。横道にそれたけど、何の罪もない動物の話にもどって、まじめに、はったりなく、普通のちゃんとした野上提言を次回に並べます。