120 動物実験(52)歴史のドラマ 7 被爆したサルのパイロッ

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120 動物実験(52)歴史のドラマ 7 被爆したサルのパイロット


野上ふさ子さんが動物実験の反対運動に取り組んでほぼ四半世紀。その前史にはつぎの4つのシーンが埋もれている。

トンボの羽やバッタの脚をちぎる年上の男の子たちの「実験」風景、キノコ雲の下で爆風に横倒しになる繋がれたヤギやヒツジの映像、高校時代に図書館で見た「原爆写真集」と「アウシュビッツの写真集」、そして、ペンシルベニア州立大学臨床研究所の実験記録のビデオを見たみたことである。

●第8幕。ペンシルベニア州立大学臨床研究所の実験風景。

(野上さんの著書「新・動物実験を考える」から要約しよう。)

一匹のサルが実験台に載せられている。両手、両足がひもで縛りつけられ、胸には電極がつけられ、頭がい骨の下部から喉を通して体内へとチューブが埋め込まれている。頭にはヘルメットをかぶせられ、セメントで固定している。そしてサルの頭部に1000G(地球の重力の1000倍の重さ)という強度の衝撃が繰り返されている。ふつう、人間なら15Gで死ぬといわれているそうだから、衝撃の強さがわかる。

サルは苦しそうに身悶えしている。サルが暴れないように鎮静剤はかけられているが、苦痛を取り除くための麻酔はかけていない。

サルの恐怖と悲惨はいうまでもないが、それ以上に見る者を驚かせ、ショックを与えたのは、研究者たちの態度だ。
お互いに冗談を交わしながら、笑っている。瀕死のサルを持ち上げてからかっているのだ。サルの恐怖と苦痛をもてあそんでいるのだ。冗談のタネにしているのだ。信じられないような光景だった。

このビデオはもともと研究所員たちが自ら撮影していた70時間の実験記録を「動物への倫理的取り扱いを求める人々」(PETA)という動物保護団体によって30分に編集され、公開されたものだ。実験記録そのものはアメリカの動物解放戦線のメンバーが1984年に同臨床研究所に入り、持ちだしたという。

ビデオが公開されたことで全米に激しい驚きと怒りの世論がわきあがった。政府や大学には抗議の電話や手紙が殺到し、ついに政府は同大学への補助金を一時ストップせざるを得なくなった。

この実験は交通事故やフットボールなどのスポーツによる事故を想定したもので、単にその事故を実験室でサルを犠牲に人工的に再現しただけのレベルだった。実際の事故防止や治療には何の役にも立たない実験だった。

ーー野上さんはここから、ナチスや、かつての日本の731部隊がおこなっていた人体実験の問題に視点を広げている。
第二次世界大戦の反省から、1964年には世界医師会が「ヘルシンキ宣言」を採択し、人体実験への規制がなされたが、動物に対する残酷性、動物実験についてはごくわずかな国を除いて、国際的な議論も規制もまだなされていない。

「日本や世界各国の研究室では戦争中と同じような秘密主義の中で動物を用いたさまざまな、残酷で無意味な生態実験が行われ、その実態はほとんど公開されることがない。実験動物たちにはいつ、戦後がくるのでしょうか?」と野上さんは問いかけ、大戦後もなお続く、『戦争のための動物実験』をの具体例をあげている。

●第9幕は『B52戦略爆撃機パイロットになったサル』

アメリカの国防総省は、爆撃機を操縦中のパイロットがソ連の核攻撃を受けた場合、どこまで任務を遂行できるか、その度合いを知りたかった。
このために、サルをパイロットに仕立てた実験を試みた。

サルを固定装置にしばりつけ、電気ショックを与えながら飛行機の操縦レバーの操作を覚えさせる。そのうえで、サルに操縦させながら、つぎつぎ放射線の量を増やして照射していく。どの程度の放射線なら、サルは操縦を続けることが可能か、を研究するのが目的だ。

この実験はドラマ化され、映画『プロジェクトX』になった。日本では『飛べ、バージル』というタイトルで公開された。悲劇なのか、喜劇なのか、ブラックユーモアなのか、判断しかねるが、野上さんは映画の最後で主人公の青年が「サルは自分が被爆したことを知らない。しかし、(人間の)パイロットはそレを知るのだ」という言葉を引用し、この実験の愚かさを断罪している。

アメリカ海軍は機雷探知や敵の潜水艇を発見するための特殊掃海部隊にイルカが駆り出されている。そのために多くのイルカが生地と異なる海域に運ばれて伝染病にかかったり、酷使され、あるいは訓練中に体罰や虐待を受け、死亡したと報道されている。

:植物も犠牲者だ。数十万ヘクタールもの熱帯雨林アメリカ空軍の投下した枯葉剤のために死滅した。植物だけでなく、この地域では人間の流産や心身障害を持つこどもたちの発生が異常に高く、いまなお悲惨な後遺症が続いている。

野上さんは「アメリカの研究者たちはどうすれば被害者たちを治療できるか、二度とこんな惨事を起こさないための社会政策、といった方向には関心を寄せず、枯葉剤が生体にどんな損傷を与えるか、あるいはサルを犠牲にして被害を再現する負に向けた研究に多額の金を使っている。これは多くの動物実験に共通する手法、考え方です」と厳しく批判している。(この項は続く)