113 動物実験(45)「果てしない実験的研究」――凡庸と異常

     ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 113

113 動物実験(45)「果てしない実験的研究」――凡庸と異常

動物実験の闇が照らし出されるのは、内部告発などごく限られた幸運なケースによることがほとんどだ。だが、それほどおおがかりでない、日常的な、愚劣で意味のなさそうな、残酷さだけが一人前のようなミニ研究なら、一般に公表されている学会誌や論文でもけっこう拾えるようだ。
「新・動物実験を考える」の中で野上ふさ子さんは『果てしない実験的研究』とうまいタイトルを使って紹介している。

●どのくらいの打撃で胸部を取り返しがつかないまでに損傷できるか。

生きた子豚三頭に暴れない程度の軽い麻酔をかけ、小石を握った拳で胸部を激しく殴打し、障害の発生機序(仕組み)を記録する。小石をもった手の殴打速度の最大値で肋骨が骨折し重大な肺の損傷が生じた。殴打速度が高いほど、子豚の受ける損傷は大きくなるという結果が得られたが、ただし「ヒト幼児の胸部の変形挙動を検討するにあたって、子豚による実験データを、たとえ体重が等しいといえども、そのまま適用することには困難がある」
(日本法医学雑誌、1989年)
=子豚の胸を力いっぱい殴ったら、肋骨が折れ、肺に大きな傷ができた。さらに早く殴れば殴るほど子豚ちゃんの傷は大きくなることも究明した。けど、人間の幼児にはこのデータは使えないよ。なんだ、こりゃ!?
あたりまえじゃないか、わかりきっているじゃないか。

●どのくらいの量で酸素を欠乏させると窒息死するかの実験

雑種成犬(飼い主に捨てられ行政から払い下げられたペット)25頭に酸素濃度5%、3%、2%前後、1%のガスを吸わせてみたら、
*1%前後群では、5,6分で犬たちはすべて死亡。
*1・8%および2%濃度群では同じく5,6分ですべて死亡。
*2・2%濃度群では3頭がそれぞれ8分、10分、16分後に死亡。
*3%濃度群では5頭が30分〜90分後に死亡。
したがって、犬では2〜2・5%程度の酸素濃度が短時間で死ぬ臨界値である。労働災害などで酸欠で死亡する場合の酸素濃度もこの程度であろう。

(法医学の実際と研究、1989年)
=だから、どうしたの??

●歯髄にどのような電気刺激を与えるとどのように反応するか

成猫12匹を脳定位固定装置に付け、左側頭筋の一部と左眼球を除去し、前頭骨と頭頂骨の一部を切除して、ステンレス製スクリューねじを左右三か所に装着し、電極を差し入れた。上下左右の犬歯の歯髄に電気刺激を与え、皮質ニューロン活動を記録した。
日本大学歯学部、1989年。同じような実験が猫20匹を用いても行われている。)
 =猫の目玉をくり抜いて、かわいそうに。それで何があったの? どんないいことがあったの? どんな学問的貢献があったの?

●電撃ストレスを与えたラットの脳はどうなるか

 ラット40匹を用い、3秒間に1回、および30秒間と1分間に各1回ずつ13〜15時間連続して電気ショックを続けた後、殺して脳を摘出し脳内アミンのノルエピネフリンドーパミンの含有量を測定した。ノルエピネフリンは3秒間に1回の電気ショックという逃れようのない絶望的ストレス、刺激の絶対量に反応するのに対し、ドーパミンはショック間隔の長い間、ラットはその時間が来ると走り回ったり飛び上り、立ち上がったりして不快感を避けようとし、心理的、情動的要因によって影響を受ける可能性が示唆された。さらに定量的な実験が必要である。
(航空医学実験隊報告、1987年)
 =電気ショックを受けりゃ、だれだっていやなのだ。それを絶望的ストレス、刺激の絶対量なんて、利いたふうな口をたたくなよ。人もラットも生きものは同じように絶望と刺激にこだわり、反応しつつあの世に近付いているんだ!

●肥満症には歩くことがいいかどうかの実験

ラットの脳の視床下部を破壊して肥満状態にし、強制回転機の中に入れ、毎分10メートルの速度で1日60分、週5回で6週間運動させる。そのあと、心臓から採血し、殺したあと肝臓を調べた。その結果、持久的な運動は体重および血中脂質上昇への抑制効果が示された。これによって減量や肥満症の運動療法への応用が期待される。翌年には、ラットに高脂肪高糖質食を与え食餌性肥満状態にして、同じ実験を繰り返し、同じ結果を得た。
東海大学スポーツ医科学雑誌、1989年、1990年)
=運動すりゃ体重減るってことだろ。こんなことして2年間も遊んでいちゃだめ。早く学生の本分に戻って勉強なさい。

「このようなことは何も実験しなくても、私たちが日常的な経験の中で知っていて、類推でだいたいのことを判別できることなのです」と野上さんも小学生に諭すように書いている。

 上記の事例とは対照的に、ときどき動物実験の成果が派手に報道されることがある。野上さんは、「ワラビには発ガン性がある」という話題を取り上げている。その実験はネズミに毎日ワラビだけを大量に強制的に与えた結果であり、人間の体重に換算すると、毎日、何十年間も茶碗に何杯も食べなければならないことになる。

同じようなことをボクも知り合いの有力な医学者から聞いたことがある。ハーバード大学に留学し、国立大学の病院長などを歴任した人だが、「動物実験は普通では考えられないような異常な条件でやりますからね。そんな条件環境は現実にはあり得ませんから。まあ、ニュースになるだけの話ですよ」と苦笑していた。