111 動物実験(43) 動物虐待罪で初の有罪判決を受けたタウブ

          ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 111

     111 動物実験(43) 動物虐待罪で初の有罪判決を受けたタウブ博士 

アメリカのメリーランド州シルバー・スプリングにある行動生物学研究所に踏み込んだ捜査員たちはあまりの悲惨な光景にわが目を覆った。

錆びた狭い檻の中に押し込められ、糞尿にまみれ、息も絶え絶えのサルたち。
2頭のサルは、脊髄の神経が切断されていたため、知覚能力を失い、運動マヒだった。

痛みの感覚が失われて、体中が傷つき、化膿しているのもいた。

痛みがわからないので、骨が肉を破って突き出し、自分の指を噛み切っているサルもいた。

手足を伸ばされて固定機に縛り付けられているサルもいる。

保護された17頭のサルたちはすべて精神や身体が異常に傷ついていたが、むろん、手当てもされず、不潔な実験室でうめいたり、うごめいたりしていた。

1981年9月のことである。

同研究所で動物虐待が行われているとの内部告発で捜査陣が動いたのだが、逮捕されたタウブ博士は、25年間、脊髄神経の切断による運動障害の実験を続けていた。それまでに苦しみながら死んでいった動物たちはどれほどの数に上るのだろうか。
 もし、内部告発がなければ、動物たちの犠牲はさらに続き、博士は世間ではまともな研究者としてそれなりの地位と名誉を守り続けていたことだろう。

 この事件は「動物への倫理的取り扱いを求める人々」(PETA)という団体が告発し、動物への虐待度と研究の自由とのやりとりのなかで、10年におよぶ法廷闘争の結果、1991年に有罪判決が出た。サルたちは安楽死処分を受けてこの世の苦から解放され、タウブ博士はアメリカの科学者として「動物実験における動物虐待罪」を受けた最初の人物として歴史に汚名をとどめることとなった。
 
これによって動物実験の偽装がはぎとられた。科学のベールをうのみすることの危険と愚かさが米国民の面前で証明された。アメリカの世論は大きく変わった。20人ほどだったPETAのメンバーも、数十万人に急成長した。

 この事件の日本版といえるのが、1990年12月に暴露された国立療養所村山病院のシロ事件(本ブログ94回〜97回参照)である。1歳の子犬が研究所の暗黒の中で人知れず受けていた悲惨と残虐が白日のもとにさらされ、一般の人々ははじめて動物実験にひそむ、もうひとつの側面を知らされたのだった。

 この病院では、むろん、ボクたちの税金をつかってのことだが、11年間に200匹の「シロ」を殺害する研究を続けていた。そして事件が発覚すると、あっさり研究をやめてしまった。その程度のお気楽な研究なら、はじめから犬たちの「命と心」をすりつぶすな、国民の血税を無駄遣いするな、といいたいが、それを差し引いても、実験のやり方そのものにも例えば、つぎのような問題点が残った。研究者たちのあまりのお粗末で非道で異常な実験ぶりにあいた口がふさがらない。

 1 実験犬の性別、体重、年齢なども調べていなかった。(そんなことでまともな研究ができると思っていたのかね)

 2 麻酔の失敗で数匹の犬を死なせている。(おいおい、しっかりしてくれよ。実験・テストされるべきは、お前さんらの基礎技術じゃないのかね。)

 3 実験と無関係の病気で犬を何匹も死なせていた。(お前さんの家では犬猫を飼っているかい? 人間の子供を育てているのかい? 大丈夫かね)

 4 大手術なのに、術後の痛みを和らげる措置を一切していない。(立場を代えて、お前さんがそんな身の上になったときのことを想像してごらん。)

 5 術後、糸も抜かず、傷口の化膿の手当てもせず、何匹もの犬を死なせた。(生まれつき、残虐な性質なのかなあ。もしいらっしゃるなら、親御さん、奥さん、子どもさんらご家族にも相談、告白、懺悔したほうが…… )

 6 払い下げを受けた犬の数、実験した犬の数さえも不明。(なんともいやはや)
 
          注・マルカッコ内は野上ふさ子さんの文章ではありません。ボクの感想です。

一般の人々は健全だ。事件発覚後、病院には「動物実験を止めてください」という署名が2ヶ月間で1万人分寄せられた。
動物実験や、いのちの問題について、考え方の相違があることはわかる。おおげさにいえば、個人の価値観、世界観、哲学などで左右される場合も多々あるだろう。それはどんな学問・生活領域でも同じだ。良心的な、あるいは狭間で悩んでおられる研究者、実験者のほうが圧倒的に多数であると信じたい。

ただ、これらを勘定にいれてもなお、物言わぬ動物たちへの一方的な残虐行為が後を絶たないこともまた厳然たる事実である。

ではどうすればいいのだろうか。
小さいがひとつの活路がある。

それが情報公開だ。研究者のみなさんにお願いしたい。できる範囲内で、一般に情報を公開してください。その基準づくりに早急に取り組んでください。隠しだてすることがあらゆる犯罪の温床になることを、とりわけ、この数年、ボクたちは各方面で思い知らされてきたじゃありませんか。