100 動物実験(32)安楽死論争   その1 

      ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 100

100 動物実験(32)安楽死論争   その1 


犬猫の『安楽死』に敏感になった時期がある。
2つのコラムを新聞に書いた。

              猫の安楽死

「ペットのイヌやネコの安楽死を依頼する外国人がいるそうだ。異国での1人暮らしの孤独を癒そうと、ペットを飼っていたが、ビザが切れて帰国せねばならない。泣く泣く別れを告げて、獣医に駆け込んでくるという。

実はいま、我が家も野良ネコの処遇をめぐって悩んでいる。
 近所の社宅にネコ好きの奥さんがいた。捨てネコをみつけると、かわいそうで拾ってきてしまう。壮年1・若年2の、あわせて2匹がすみついていた。
 ある日、壮年の方がいなくなった。代わりに2匹の子ネコが釤調達釤されてきた。

〈大きいほうはもう自活できる。だから山に捨てた。子ネコは自活できないから、大きくなるまで養う〉と奥さんの説明だ。1年前のことである。
 
この夏、社宅が取り壊されるとことになった。奥さん一家は2匹の子ネコとともに転居し、あとに若年の2匹だけが残された。自活できると判断されたのだろう。
 やがて、1匹はどこかへ去ったが、愛嬌のない、愚鈍そうなのがいまだに近所をうろついている。そいつがわが家の庭をうかがうのだ。わが家にも元野良ネコが2匹いる。最初のころ、一緒にエサをやっていたが、だんだん心配になってくる。ヘンな病気など移さないだろうか。
 
わが家のネコは 人間の寝床にも入ってくる。家人は日に何回となく、丹念にからだを洗ってやる。といって、いまさら3匹も飼う余力はない。差別はよくないことかもしれないが。

 ネコぎらいの隣家の主人は「中途半端にエサをやるのが1番いかん。面倒みなかったら、よそのネコはどこかへいく。それがみんなの幸せだ」と力説する。
 
この1週間、実行してみた。やつは晩秋の雨を路上の車の下でしのぎ、ほえられながらイヌのエサを失敬している。わが身のふがいなさに胸がうずく。
 同時に、決して豊かでないはずの外国人労働者が、ポケットマネーをはたいてペットを安楽死させていった、けじめのつけかたに感心する。」

 この記事に読者からいろいろな批判が寄せられた。安楽死についてボクはそれほど深く考えていたわけでない。
〈豊かでない外国人が多くの日本人のように無責任に放置したり、捨てたりせずに、また、最期を見届けないで保健所任せにしたりせずに、自分のお金を使って苦痛の少ない旅立ちをさせている〉―――そのことにちょっと感動したのだった。

立場を変えてボクが外国で短期滞在して帰国するような場合、その地で知り合った猫を連れてくるだろうか。自信がない。まあ、そんな程度で書いたのだが、気軽すぎたかもしれない。読者の方々の真剣で深い考えについてはのちに紹介させていただく。
 
ただ、ボクにも多少のこだわりがあり、2つめのコラムを書いた。

             ネコたちの運命

外国人労働者が帰国するとき、飼いネコを安楽死させたけじめのことをこの欄に書いたら、たくさんの人からお便りをいただいた。多かったのは「それはけじめでない。人間の身勝手な許せぬ行為」というおしかりである。
 もっともだと思う面もある。だが、私が目撃したつぎの光景はどう考えればいいのだろう。
 
通勤途中の小さな畑のそばにネコが日なたぼっこをする空き地がある。付近はアパートの密集地。半年ほど前から子ネコが群がるようになった。7,8匹はいる。
 先日、通りかかると「エサをやらないで。たいへん迷惑しています」と大きな張り紙。その翌日、応酬するように「ネコを放し飼いにしないで」と丸っこい少女字体。さらに3日目、「野良ネコです。エサをやらないで」とだめ押しの警告が出た。
 
張り紙合戦はこれで終わり、空き地には金網が張られた。ネコのたむろする姿はない。ゴミ収集日など、子ネコたちはビニール袋の山にしがみついたり、通行人のあとをつけたり…。
 
このネコたちが、これからたどるであろう運命をハッピー順に予測すると、?人間に飼われる?野良ネコとして寿命をまっとうする?飢えや寒さで野垂れ死にする?行政機関のガス室などで処分される?実験動物用に大学や研究所に払い下げられる、などだ。

 飼われるのが最高だとしても、ネコの繁殖率、都会の住居事情などを勘案すると、ほんの一握りに違いない。野良ネコで生涯を過ごすのも至難のわざだろう。
 藤沢市の恭子ちゃんは「捨てネコを七匹も飼っています。これ以上はパパが許してくれません。かわいそうな野良ネコちゃんに」と便りにエサ代を同封してきた。

 人手を離れたネコたちに前途は厳しい。動物愛護団体の人たちから実情を聞くと、心が暗くなる。去勢・避妊手術は飼い主の最低限のルールだと改めて痛感する。
そして、やむなく別れるときは、出会ったときと同じ情熱を込めて納得のいくサヨナラをしたい。それがペットと共存する道だ。」

 その後も読者からの反響が絶えず、とうとう週刊誌が取り上げた。
(次回につづく)