98 動物実験(30)対象はやがて動物から弱者へ!? 人へ!?

     ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 98

98 動物実験(30)対象はやがて動物から弱者へ!? 人へ!? 

人間に懐いていた公園のハクチョウ・コクチョウが20羽以上も首を折られたり、撲殺され、母鳥が抱いていた卵が無残に割れていた。
各地でチューリップが、ボタンが、バラが車で踏みにじられ、茎をちぎられ、花をもがれ。

弱きものへの殺戮が連日つづいている。
「無抵抗な動物や植物を、なんという無残な人間のしわざでしょうか!!」とテレビでアナウンサーも途中から言葉を失っていた。

むろん、シロも無抵抗の子犬で、モラルのない研究者の餌食になっていた。
いや、人間と無抵抗の動植物との相関図にとどまらない。この国ではこのところ、「相手はだれでもよかった」殺人が相次いでいる。
「巻き添えになっても知らんからね」自殺も流行している。

以前、本書の著者、野上ふさ子さんが動物実験の残虐さを知って、「実験の対象が、そのうち動物から人間の弱者(精神障害者、高齢者、患者)へ移っていきますよ。弱者を思いやる気持ちの喪失はやがて社会全般に実験病の蔓延になるのでは……」といっていた。

その後、老人ホームの入居者を対象にした各種医学実験が本人に無断で行われていた。まったく未経験の、高度な手術を複数の医者がマニュアルを読みながら患者に施し、死にいたらしめた、などなどの事実が報ぜられた。

最近は、母親を殺し、おなかの中に何があるのか調べたかった、と腹部を裂いた少年もいましたね。これは何の実験と呼ぶのだろう。

なんとなく野上ふさ子さんの予言どおりの世の中になっていくようでそらおそろしい。自分だけよければいい。想像力というものが病的に欠如した社会にいま、ボクたちは住んでいるのだ。

動物実験についても、その成果だけもらえばいいんだ、実験されて苦しみ死んでいく動物のことは、とりあえず、横に置いといて、という人がけっこう多いように見受けられる。

みなさん、そうはうまくいくかなあ。ひとりひとりが、自分だけ、という精神でいくと、やがて思わぬところからしっぺ返しがくるのでないかな。世界を濃霧で覆いつつある石油や食糧の資源問題などその不吉なトップバッターに思われてならないが、そのことはいずれ書きます。

さて、野上さんの著書からの抜粋。
動物実験の素材になるのは、犬猫ばかりでない。日本では哺乳類だけで年間2000万匹と推定されている。本書によると、実験室に送り込まれるルートはつぎの5つ。

1、 保健所や動物管理センターなどからの払い下げ。
研究機関にとって犬猫はただ同然で払い下げられるのでもっとも安易な入手方法だ。多くはシロと同じように飼い主に捨てられたペットだが、その3割ほどは衰弱していたり、病気だったりして、実験以前の段階で使い物にならないとされる。研究側はそれを見越して多めに払い下げを求める。

2、 犬猫引き取り業者による売却
 「犬猫をもらってください」、という類の広告をときどき目にするが、それ
に応じて申し込んでくる人の7,8割はこのような引き取り業者という話も
ある。
また、ペットショップなどで売れ残りの動物を実験用に売却しているのは事実だ。
そのほか、猫捕り業者が捕獲箱をあちことに仕掛けて無差別に捕獲し実験用に売っている。

3、 民間の実験動物繁殖業者による供給
  実験用のイヌ、ウサギ、ニワトリ、マウス、ラットなどの繁殖は農業(畜
産)とみなされ、畜産関係の補助金をもらったうえで生産されている。この
ような施設で繁殖させる場合は、施設費、えさ代、人件費などがかさみ、動
物の値段が高くなる。
このため、海外から輸入される場合が少なくない。実
験動物として専用に繁殖させたピーグル犬の輸入価格は1匹15万円を超える。保健所経由の捨て犬猫、ノラ犬猫のように無造作に使えないわけだ。

4、 外部から完全に隔離された施設内での繁殖
外部からの細菌感染などの影響がないように殺菌した密室の中で動物を繁殖させる。あるいは、近親交配を系統的に繰り返して、遺伝的に均質な形態をもつ動物を大量に作り出していく。また生まれながらに特定の病気をもった『疾患モデル動物』を人工的に作り出す。

5、 野生からの捕獲
動物実験はむろん、人間の身代りにおこなう。だから、人間に最も近い種としての霊長類が身代わり動物には最適とされる。霊長類動物のほとんどは東南アジアや中南米、アフリカの森林で捕獲され、世界中の実験室を舞台に売買・取引されている。いま、霊長類はすべて絶滅に瀕しており、チンパンジーワシントン条約絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の付属書?に指定されている。

実験によくつかわれるアカゲザルカニクイザルなどのマカク属のサルは東南アジア諸国での実験用の乱獲で急速に減少したため、輸出を禁止した国も出ている。それにもかかわらず、ワシントン条約では学術研究用であれば取引が許されるという抜け道があり、野放図に取引されている現状だ。
 
一方、アフリカ諸国では熱帯雨林の破壊に伴い、エボラ出血熱などサルを媒介する致命的な感染症の存在が明らかになり、日本ではアフリカの熱帯雨林に生息する霊長類の輸入は禁止された。

このほか、日本では開発による森林破壊が進み、追われて人里に現われてくるニホンザルが『有害獣駆除』の対象となり、捕獲されたサルの相当数は実験用に売買されてきた。