91 動物実験(23) ピンボケの怪文書  

            ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 91

91 動物実験(23) ピンボケの怪文書  

 このころ、動物実験へ人々の批判の高まりをかき消そうとするたくらみだったのか。野上ふさ子さんらの「動物実験の廃止を求める会」をひぼうする怪文書が出回った。ボクのところにも届いたのでつぎのような記事にした。

怪文書は、<求める会>は、動物保護をうたいながら、じつは営利を求める偽装団体の疑いがある、その証拠として?ウサギの目で毒性テストをしている化粧品会社の顧問弁護士と裏でつながっている。?サルを使う衝突実験をしている自動車会社から献金を受けているーーという内容だ。

 『よくもこんなウソを』と求める会の側は怒るよりもあっけにとられている。真偽のほどはボクにもわからないとしておこう。ただ、もし企業が金を渡しているとすれば、どんな見返りが期待できるというのだろう、理解に苦しむ。

 同会は、ボランティアの女性たちが中心になってほとんど手弁当動物実験廃止の運動をしている。7年前、数人のグループで始まったが、いまは3500人にふくれあがった。マンガ家の石坂啓さんらもメンバーだ。

海外の文献を集め、大学、役所、企業などに訴え、各地で日本の動物実験の残酷さと無意味さを知ってもらうパネル展を開いている。いま日本でもっとも活発に動いている動物保護団体の1つ。動物実験をしている企業や大学などから警戒され、敬遠され、煙たがられている存在だ。そんな何の利益にもならない人や団体にわざわざ企業が金を出すはずもなかろう。

先日、京大の学園祭で開かれた同会のパネル展をのぞいたが、メンバーの人たちの献身的な働きに心をうたれた。
頭蓋骨を開かれ、自分の頭より大きな装置を組み込まれた子猫、死に至る実験を待つヤギの母子、脚や内臓を切りさいなまれ、それでも人に懐いてくる半身不随のイヌ。この生き物たちには生存権も裁判所も駆け込み寺もない。畑正憲さんも助けてくれないし、テレビにも出演の機会がない。死ぬまで残酷な実験が繰り返されるだけだ。

このとても弱くてつらい動物たちのために同会は個人が会費を出し合って闘っている。
いまいちばん力を入れているのは『動物の保護及び管理に関する法律』の改正だ。昭和48年に制定されたわが国で唯一の動物保護法で、動物の虐待の防止と愛護、生命尊重の理念を掲げているが、動物虐待の具体的な定義も、その罰則もない。実効力がなく、むしろ動物の管理面に重点がおかれている。

先進国のなかで動物実験の規制法をもたないのは日本だけで、わが国の動物実験の残酷さは国際的にも悪名高い。現行法を改正し、諸外国なみに動物実験の公開制度、事前審査などを織り込もう、という同会の呼びかけに3ヶ月で20万人が署名した。つぎの通常国会に請願する予定だ。

それにしても最近、私たちはお金の動きに過敏になっている。『不正な金』は現在のキーワード。これを悪用すれば、無実の相手をムード的に安易に傷つける切り札となる。『ジャップ、ヤンキー、アカ』などと同じように問答無用、情緒的に相手を追い込む宣伝効果をもつ。

質素なボランティア団体の人たちにこんな言葉を浴びせる怪文書の主よ、明るい場所へ出てきて申し開きをしてみなさい。」

その後、怪文書の主からの反応はなく、この話は立ち消えになった。内容の真偽がおのずから明らかにされたわけだが、こういう怪文書の効果で得をするのはいったいどんな人、グループ、団体、業種なのであろう。ボクはしばらく思案したのだった。

(記事は新聞掲載当時のまま。その後、法は改正されたが、基本的には何もかわっていない。動物実験へのチェック体制、規制のなさなどは従来のとおりである。)