89 動物実験(21) 市民パワーの高まりで、初めて新聞社説に

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89 動物実験(21) 市民パワーの高まりで、初めて新聞社説に  

動物実験のあり方や、読者の反響の記事が紙面を賑わすようになり、とうとう社説を書くことになった。いま読み返すと、平板で迫力がない。一般的、平均的、抽象的だ。ただ、一般紙が社説として動物実験を取り上げるのは長い新聞各紙の歴史でもこれが最初である。これまで闇に隠されていた動物実験に光をあてようという市民パワーの高まりの証明とも言えた。そういう点では意味のある社説なので転載しておこう。
 
         問われる動物実験のありかた

動物実験のありかたを見直そうと、という声が強まっている。人体への薬害や化学物質による健康被害を防ぐために,動物実験は必要にちがいない。しかし、動物愛護の精神に照らして、不必要な虐待を与えてはいないか。

わが国には欧米先進国のようなチェック機能がない。そのために近年、日本人の学術論文が『動物実験の内容が非倫理的、残酷』と欧米の学会から締め出される例が出ている。遅れている『動物福祉』の法整備を図るべきだと思う。

残酷だと批判されたのは、例えばイヌの首を絞めて窒息死させる課程でのホルモン分泌の変動測定や、ネコの脳の表面を空気にさらしてむくみをつくったり、脳神経の働きを調べるため麻酔をせずに動物の首を切断したりした事例である。

欧州の先進国の場合、動物実験をしようとするときは国や自治体、動物保護団体出構成する委員会に事前に計画案を提出し、許可を得る必要がある。動物の受ける苦痛度、その排除法などの明記が義務づけられ、審査の対象となる。
そこで動物の苦痛に比較して人間の受ける利益(実験の成果)が小さい、と判断されたら、実験は認められない。英国では担当役人に実験室の査察権限があり、実験途中でも動物の苦痛に応じて、安楽死を命じることができる。

このほか、実験施設や実験技術者にもライセンス制度を採用し、最終的には動物実験の中止を目的とする条約を欧州評議会は五年前に採択している。

米国やカナダでは、これほど徹底していないが、弁護士、牧師、主婦など第三者を含む内部委員会で計画案を審査するシステムが確立している。米議会技術評価局は四年前に『動物の生体実験はできるだけ止めるべきだ』との報告書を発表した。

このように欧米先進国では動物福祉の社会的な監視態勢が行き届いている。実験動物の施設も、飼育場所を広くし、運動場や止まり木を付設するなどの目配りがなされている。まず実験回数、という効率一点張りの日本とは大きな違いだ。

わが国では三年前、文部省の通知で多くの大学、研究機関に『動物実験倫理委員会』の類が発足したが、構成メンバーはほぼ内部関係者に限られている.倫理的な判断は実験の当事者に一任され、仮に実験が不適当であっても、委員会には中止させる権限はない。

動物実験は医学の分野だけでない。日焼け止めなどの化粧品やせっけんの安全性検査にも大量のウサギの目が使われている。
欧米の化粧品メーカーは最近、ウサギを使った実験の廃止に向かっている。米国では『そのメーカーが動物実験をしているかどうか』を買い物の際の判断材料にしよう、というガイドブックまで出てきた。

わが国は実験動物の輸入大国でもある。研究や技術・商品開発に際限はないし、実験動物の福祉の位置付けについては、人びとの考え方は必ずしも同じではないかもしれない。しかし、動物実験のありかたは先進国のなかで特殊例だという事実はかみしめるべきだ。

文部省の補助金で海外の動物実験を視察してきた慶応大学の前島一淑教授はこのほど『効率面だけにとらわれず、欧米なみに動物福祉の優先を考えるべきだ。そのための法改正を急げ』との報告をまとめた。
小さな命をいとおしみ、実験による苦痛や死を最小限に食い止めるための法整備を望みたい」