73 動物実験⑤仏の女性研究者が京大霊長類研究所を世界に内部告発

   ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門 73

73 動物実験⑤ 仏の女性研究者が京大霊長類研究所を世界に内部                             告発

元研究員の言った「外部に漏らさない、無意味な動物実験」とはどういうことなのだろう。ボクはとくに動物好きではない。ただ、子どものころ家で大型犬を飼っていた。だから犬猫だって、それなりの感情を持ち、肉体的苦痛も感じる。それくらいのことはわかっている。けれど、投書にあった女子大生の授業といい、製薬会社の研究といい、犬猫は文字通り機械の部品扱いだ。カレらに感情も苦痛もないと思っているのだろうか。

もう30年ほど前になるが、銀座のデパートへ子どもの夏休み風景を取材にいったときの光景がだぶる。屋上で5,6歳の子どもが買ったばかりのカブトムシを引きちぎり、ばらばらにして捨てたあと、つまらなさそうな顔をした。そばにいた若いパパが「もう捨てたのか。お前、これ、電気仕掛けとおもっていたのだろう」と笑った。

現在、「動物実験廃止・全国ネットワーク」と「地球生物会議」の代表を務める野上ふさ子さんは、1986年の国際霊長類保護連盟の機関誌を教えてくれた。そこには京大霊長類研究所の実験の様子がつぎにように紹介されていた。

『実験用サルは地下のお墓のように暗い部屋に入れられていた。何年も拘束椅子にくくりつけられ、多くのサルが首やおしりのまわりに潰瘍ができていた。サルには適正な食物や水は与えられていなかった』

『4匹のサル(2匹は実験用、2匹は対照群)はハンドルを動かすことによって手首関節を伸ばしたり曲げたりするよう訓練された。12回動かすごとにサルにはほうびとしてジュース(水)が一滴与えられた。

訓練が終わるとサルは外科手術で頭蓋骨に金属の頭部ホルダーがつけられ、その2,3日後、放射性物質挿入用に管が頚動脈に挿入された。それからサルたちはまた手首の動作をさせられた。

一匹は殺されるまで7584回し、もう一匹は6210回した。実験後は二匹の対照群のサルも殺された。実験の目的ははっきりしなかった。』

この機関誌の記事はなまなましい写真つきで掲載され、国際的にも問題になった。密室の作業が白日のもとにさらされ、日本の動物実験の倫理のなさ、意味のなさの証拠が突きつけられたのだ。

このできごとを外部に漏らしたのはだれか?
残念ながら日本人の研究者ではなかった。同研究所で働いていたフランスの女性科学者バーナーデッド・ブレサード博士だった。

このような内部告発がない限り、わが国の動物実験の実態はまず外部に漏れてこない仕組みになっている。欧米諸国と異なり、すべて内部で自主的に運営され、国や自治体、動物保護関係者など外部のチェックがまったくない密室の作業だからである。

その後、同研究所は国際霊長類保護連盟に謝罪し、『サルたちは食物も水もいつも手にはいる状態になり、また椅子に永続的にくくりつけられることはなくなった』と連絡している。だが、その後も同研究所は写真を撮らないなどの条件付で実験のごく一部を例外的に限られた人たちに見せることはあっても、一般の人たちには実験の模様はベールに包まれたままだ。

欧米諸国でも,動物実験そのものは基本的に公開されていない。実験に障害が出るとの理由からだ。しかし、実験動物はさまざまな方法で守られている。

例えば実験計画には厳しい事前審査、許可を受けねばならない。欧州諸国では一般に国や自治体が設置した委員会が実験の目的、内容などを審査し、パスした計画を国などが許可する仕組みになっている。

米国では実験する研究機関の責任で委員会を設置、自主的にチェックするが、なれあいや密室的な審査にならないよう研究機関と無縁な第三者である外部の聖職者、法律家、動物保護活動家を加えることが法律でさだめられている。さらに委員会の記録は国などに報告することが義務づけられている。

これらの国では、法律で動物虐待の定義が明確にされているので動物が必要以上に殺されないか、無意味な、目に余る苦痛を受けることはないか、実験の目的は正しいか、目的に沿った実験なのか、などがチェックされる。

それに比べてわが国はどうか。大学などで実験委員会の設置が義務付けられているが、内部関係者だけで構成されているのがふつうで、外部への報告義務はない。

欧米のように実験施設や実験者の国や自治体による許可・登録制もない。施設への立ち入り検査、監視体制もない。誰がどこで何のために、動物を実験し殺したとしても密室内のできごと、外部にはかかわりがないという理屈になる。

だからあとで具体例をあげるけど、残虐で、アホらしい、バカげた動物実験の例があとを絶たない。どんなにアホな研究だって、1人前の顔をして動物を使い、殺し、まかり通っているのである。


注・上記のブログに関して、動物保護活動をされている方から下記のメモが寄せられました。

 法律改正により、爬虫類、鳥類、哺乳類を扱う施設は、すべて「動物取り扱い業」に該当します。
 このため、動物管理行政機関による、不定期ながら、年に1回程度、立ち入り検査が行われるようになっています。
 立ち入り検査には、ほとんどの場合、獣医師資格を持つ職員が入り、個別の実験を見る訳ではないものの、施設内部はもとより、動物の保管場所等、一通り現認します。
 例えば、兵庫医大の実験動物施設については、西宮市動物管理センター職員が、複数で立ち入ります。
 これだけでも、以前と比べれば、ほんのわずかであっても、密室性が破られています。