71 動物実験③ 4人の臨床医の証言

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71 動物実験③ 4人の臨床医の証言

 動物実験について、日本の学生はどう考えているのだろうか。

 これまで欧米の学生にくらべて日本の学生は動物たちの命や苦痛に鈍感または無感覚とされてきた。しかし、なかのまきこさんは、そうでもないという。彼女は卒業論文で、いくつかの証拠をあげている。

 たとえばーーー慶應大学医学部学生の意識調査では約10%が動物実験に批判的だったし、他大学の医学部の調査でもほぼ同様の結果が得られているという。また、関係団体や組織に、医学生や獣医学生から、実習内容や動物の取り扱いの残酷さを訴える内容の手紙や電話が多く寄せられているとの報告も引用している。

そのうえで、4人の臨床医のコメントを並べた。 

 ●ロサンゼルスの動物病院に勤務している西山ゆう子獣医師は、大学時代の動物実験を振り返って以下のように語っている。
 
「はじめは"かわいそう"と声に出していた学生達も、時間に追われる生活に疲れて、"スムーズに実験が終わる"ことの方が重要になっているようでした。

これら一連の動物実験が、本当に獣医師を養成するのに必要なことであるのなら、意義があることでしょう。しかし残念ながら、その大部分は、必要なかったり、削減できたり、代替法で充分だったり、大学の制度を改善することによって省くことができるものだと思います。」

山口県秋吉台自然動物公園に勤務している笹野聡美獣医師は、大学の生理学実習の例を挙げ、「これらの実験の内容の殆どは教科書で述べられている原理を確認するもので、わざわざ多くの動物を苦痛にさらしてまで実施する必要性があったのか、疑問を抱いてしまう。」と述べ、

さらに必修の外科実習についても、「実際今の仕事に役立っているのは、研修医時代の経験であって、実習を反芻しながら手術を行ってはいないはず。学生全員に見合った数だけ犬を犠牲にする必要はないだろう。小動物臨床の希望者は、実際に病気で手術の必要な動物の手術の様子を見学したり手伝ったりすることで、ある程度の経験は得られるだろう。」と語っている。

● 97年東北大医学部を卒業し、現在国立医療センターで勤務する田沼順子医師は、大学時代の薬理学で犬を使用した実習をつぎのように振り返る。

「既知の事実をなぞるだけの無意味な動物実験には反対。おそらく多くの医学生の意見は私と同じだと思う。」。
 
● 96年に大阪大学医学部を卒業し、現在は大阪警察病院に勤務している中田健医師は、在学中一切動物実験を行わずに代替法で学習し単位を取得した。

 「医学生時代、あるきっかけから動物実験に疑問を持ち始めました。特に基礎系の学生実習は、毎年同じ内容をプログラムに沿って行い、単位を取るためにこなすだけで、尊い生命の残酷な浪費ではないかと思わずにはいられませんでした。ともかくも、自分だけは手を下したくないと思い、なんとか動物を扱う実習には参加せずに済まそうと試みました。 動物を扱う実習を行う教科は、遺伝学、生理学、病理学、そして細菌学でした。

 まず遺伝学の授業で実習の説明があった際に、勇気を振り絞って手を挙げ、自分は信条として動物実験を受け入れられないので参加したくない旨を、教官やクラスメートの皆を前にして発言しました。

代替としてレポートなど別の課題を与えてくれるようお願いしました。クラスはざわめき、教官もこのような学生は初めてだったようで、少々驚いていましたが、後で個人的に話し合いましょうとのことでその場は終わりました。結局、後で教授と話をし、動物を扱う実習の時は、図書館で自習していればよいということになりました。

これをきっかけに、クラスメートの何人かにも自分の気持ちを話し、特に実習で同じ班になる人たちには迷惑をかけることになるので、理解を求めました。僕のように行動を起こすに至らなくとも、同じような疑問を感じている人たちもいるということがわかり、なんだか安心しました。クラスのみんなが僕のスタンスを知つてくれたことと、教授会でも話題にのぼり、他の教授方も僕のような学生の存在を認識してくれたことで、この後の行動がしやすくなりました。

生理学、薬理学では、ます教授あてに短い手紙を書き、その後教授室を訪れて話をしました。教授は若く、アメリカなどでの研究経験がある方も多いので、西洋での動物実験に対する厳しい批判などもご存じで、僕が何も説明する必要はありませんでした。

ただ、実習は小グループで行われ、教官が毎回違うので、その都度別の課題を与えていただくということになりました。
 
細菌学の実験は確かクラス全員の前でのデモンストレーションという形だったので、そのままサボタージュさせてもらい、感想を書く紙に自分の思いを綴りました。
 
 臨床に進んでからの実習では、もちろん実際に患者さんを相手にするものでしたので、動物実験はありませんでした。
 
 というふうにして、何とか動物実験をせずに医学部を卒業し、医者になることができました。動物実験に露骨に反対を表明して実習をボイコットしたのではなく、ずるいようですが、うまく立ち振る舞って何とか自分だけは動物実験を回避したのが良かったのではないかと思います。

確かに、僕のやり方は大変消極的で、医学部における動物実験の現状を変えるものではありません。しかし、教官やクラスメートの皆に、動物実験に疑問を持つ医学生もいて、これから将釆増えて<る可能性があることを知ってもらうことができたこと、そして何よりも、僕白身動物実験をしなくて済んだということで、充分意味があったと思っています」
以上である。

日本中のお医者さんがこんなふうであってほしい。ボクはすべての実験動物たちとともに祈ることにしよう。