29  大けがをしていた極チビ 肝臓の悪い黒

 ノラ猫たちとさまよったボクの仏教入門  29

    29  大けがをしていた極チビ、肝臓の悪い黒

 2日がかりの子猫作戦はひとまず終わった。
 翌日の夜、Kさんがローソンの2匹だけを返しにきてくれた。
 驚いたことに極チビは尻尾に大怪我をしており壊死状態になっていた。写真を見せてもらったら、尻尾の先っぽ10センチほどが毛がなく、真っ赤になり、ところどころ黒い。何かに挟まったか、車に轢かれたのか。さぞ痛かったろう、という。いまはおそらく痛みは少ないだろうが、放っておくと死にいたる。治療には一週間ほどの入院が必要という診断だ。

 入院させてもとにかく治療をしてください、とお願いした。
 また、チビなのでメスとおもっていたが、意外にもオスだった。
「男にしては小柄だけど、まあ、治療をして、これから成長するのでしょう」という獣医のメッセージもあった。極チビがひたすら溝の奥に閉じこもったのも路上でのアクシデントを恐れてのことかもしれない。溝の奥でも寒くて痛かったろう。おなかもすかせたことだろう。最後の夜はけっきょくだまし討ちにして、餌をやらずに捕まえてしまった。ボクだけを信用していたのに、裏切られて。母親も奪われて。それにこの先、カレが生き延びたとしてもどんな幸せがあるというのだろう。
 なんのためにカレは生まれてきたのだろう。

 ローソンの2匹は妻の勘のとおり、黒がオス、白はメスだった。そして黒は肝臓の数値がきわめて悪いという。体調はよくないに違いないとのこと。おとついの女性との格闘もさぞしんどかったことだろうとかわいそうにおもってしまった。長く生きれないのだろうか。
 ボクは行けなかったが、妻が立ち会って、ローソンの付近で2匹を放した。「手術痛かったでしょ。ご苦労様」といって妻は鳥のから揚げを用意していたら、白は口に銜えて逃げ、黒は見向きもせず走り去ったという。
 良心的な獣医さんで、料金はふつうの半額。そのうえ、健康状態なども調べ予防注射もサービスでしてくれた。極チビの捕獲にもあんなにがんばってくださり、ありがとうございました。―――老人性の感傷的症候群なのか、この夜はなにもかもに感謝し、なにもかもが哀しかった。

 ローソンの広場には水が撒かれ、白と黒も隅っこの緑地や隣接する川原にたむろすることが多くなった。一段と寒くなり、お客さんもそそくさと帰っていく。ボクたちの餌やりのローテーションに2匹が加わった。店からなるべく離れて餌をやるようにした。橋脚のコンクリート台の上や、川原に誘い出した。
 白はボクたちをみると、いつも全力疾走で足元にまつわりついた。はじめ黒は用心深く一定の距離以上には近付かず、白が餌を食べ始めるのをみて、そろそろと加わった。しかし、5日ほどすると2匹とも我先に駆けつけてくるようになった。人目につきにくいローソンの緑地や橋のたもとの窪みに潜んでいて、ボクたちをみつけると飛んでくる。「先に餌場へいってるからね」というように、ボクたちを追い越しまっしぐらに歩道から川原へ通じる小路へなだれこんでいく。2匹が体をぶっつけあい転がるように消えていく光景は永くボクの網膜に残った